三気堂薬局|熊本の調剤薬局

2024.7.19

身近な薬草と薬のお話🌼 ~Vol.1 夏に咲く花~

 

私たちが暮らす地球には、病気の治療や健康の維持に効果のある成分を含む植物が数多く存在します。

現代のように薬のなかった時代、周りの薬用植物を用いて病気を治し傷の手当をしていたのですね。それが薬の起源とされています。

 

7 月のある日、自宅近くで見つけた薬草を紹介します。

 

クズ Pueraria lobata (Willd.) Ohwi.
生薬名:葛根(カッコン)   薬用部位:周皮を除いた根

 

木のオバケ!

川沿いを歩いていると、10 メートルにも達する長いツルを伸ばし、まわりの高い木々に広く覆いかぶさる姿がまるで木のオバケのような植物がありました。クズです。

感動したことに、 大きな葉に隠れるようにして紅紫色のきれいな房状の花を咲かせていました。 マメ科クズ属のつる性の多年草で、 日当たりのよい空き地や土手、フェンスや高速道路脇などの高いところにも自生する身近な植物です。生命力が非常に強く痩せ地でも勢いよく育ちます。 地下に大きな塊根 (澱粉などの養分を蓄えていて塊のようになった根) を作り、 葉は 3 枚の小葉が集まって 1 枚の葉となり長い柄があり互生します。クズの肥大した根の部分が薬になるのですが、大きいもので直径が 30cmくらいにもなるそうです。その根を掘り、コルク皮を剥いでサイコロ状に切って乾燥させたものが葛根(カッコン)です。 灰白色で澱粉質に富んでいるものが良品とされています。

 

葛根湯の原料!

 

 

漢方処方では、 葛根湯、 葛根湯加川芎辛夷、 升麻葛根湯、参蘇飲などに配合されています。
葛根湯には7つの生薬が含まれているのですが、 麻黄と桂枝で悪寒・発熱に対して発汗解熱作用が増強され、甘草、大棗、生姜、芍薬で消化器症状を防いでくれます。葛根の主治は項背強也(こうはいこわばるなり) 、首筋の凝りを改善してくれます。葛根湯の適応が「自然発汗がない場合で、 感冒などの感染症の初期で悪寒、 発熱、頭痛、 項背部のこわばりなど」とありますから、 しっかり葛根湯の構成生薬の一員としてお仕事している感じですね。 皆さんご存じの風邪の時に飲むと体が温まる葛湯や、ぷるぷるとした食感が魅力の葛餅もこのクズの根からとれる葛粉を使ったものです。

 

秋の七草🍂

 

ところで、クズは秋の七草の 1 つとされています(オミナエシ、ススキ、キキョウ、ナデシコ、フジバカマ、クズ、ハギ) 。

万葉集を代表する歌人、山上憶良が「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」と詠んで以来、 「秋の七草」と親しまれるようになったそうです。 春の七草が七草粥にして無病息災を祈るものに対し、その美しさを鑑賞して楽しむほか、薬用など実用的な草花として昔から親しまれてきたのです。

 

クズは万能植物!

クズは、見た目はただの雑草のようですが、実は捨てるところのない万能植物なのです。 花を乾燥させたもの葛花(かっか)は、「酒毒を消す」と言われ二日酔いの妙薬に、葉は家畜の飼料となり、茎は葛布や工芸品に、またロープのかわりにもなるそうです。

 

 

 

オニユリ Lilium lancifolium Thunb.
生薬名:百合(ビャクゴウ)   薬用部位:鱗茎

 

鮮やかな朱色とムカゴ

土手のあちこちに、唐辛子のような形をした今にも開きそうな赤や緑のつぼみを見つけました。2 日後に見に行くと鮮やかな朱色の花を咲かせていました。オニユリです。ユリ科ユリ属の多年草です。

草丈は 1~2 メートルで茎は直立し葉は互生します。黒い斑点のある橙赤色の花を 4~20 個下垂して付け、花弁は著しく反り返っています。一番の特徴は葉の付け根に形成される濃褐色のムカゴです。観賞用にも栽培され、地下の鱗茎 (りんけい)と呼ばれる球根は 「ゆりね」として食用にされるのですが、 薬になる部分も鱗茎です。 鱗茎(球根)の表面の鱗(ウロコ)状のものを鱗片葉といい、その鱗片葉をバラバラにして蒸し、日干しさせたものが百合(ビャクゴウ)です。

 

 

 

咳止めです!

 

 

漢方処方では、辛夷清肺湯に配合されています。 辛夷清肺湯の適応症は「鼻づまり、慢性鼻炎、蓄膿症」なので、辛夷を主薬とした鼻炎専門の薬のようですが、百合(ビャクゴウ) 、麦門冬、琵琶葉など咳を鎮める作用が期待できる生薬が配合されていることで、肺に熱があり、粘稠な痰が咽に絡んで咳や咽痛を呈する場合にも用いられます。 百合 (ビャクゴウ) の薬能は「潤肺止咳」「寧心安神」ですから、肺を潤す作用以外に気持ちを落ち着かせる精神安定作用もあるようです。

 

歩く姿は百合の花

 

ところで、 「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」とはお聞きになったことがあると思いますが、美しい女性の容姿や立ち居振る舞いを花にたとえて形容する言葉ですよね。
すらりとした美しい女性をたとえた芍薬、美しい女性が座っているかのように見えるさまをたとえた牡丹、そして百合は女性が優美に歩く姿のようだと比喩しています。 ジェンダーフリーといわれる昨今、このような女性への表現も批判されかねない時代になって世知辛いとの記事を目にしたことがありますがさておき、女性の美しさを形容するこの言葉は、実は興味深いことに元来漢方薬の使い方を示した言葉だったそうです。百合の花のように足元がふらつき頼りなさげに歩いている様子を、精神的に病んでいる人の歩く様のようだとし、精神の安定をはかる百合 (ビャクゴウ)の入った方剤を使うべしとしています。ちなみに「立てば芍薬」 の立てばは、イライラと気の立っている状態のことのようで鎮痛・鎮痙作用のある芍薬の入った方剤(当帰芍薬散など)を、そして「座れば牡丹」は、座ってばかりいる人は血液の巡りが悪くなるから、血流を改善する牡丹 (牡丹皮として) の入った方剤(桂枝茯苓丸など)を使うべしとのことのようです。おもしろいですね。

 

真夏の炎暑!

それにしても、 花を見つけた日は雨降りだったのですが、 色といい形といいオニユリは真夏の炎暑のような花ですね。

 

いかがだったでしょうか?とても身近なところに薬の原料となる植物があるものですね。
皆さんも是非探してみてください。次回は秋に咲く花を探してみたいと思います🌼

 

 

参考文献

薬草パークガイドブック  熊本大学 薬学部
くまもと野の花  熊本日日新聞社
牧野富太郎植物記 3  山の花
そこが知りたい漢方  メディセオジャーナル
腹証図解  漢方常用処方解説

 

 

大東裕子

有限会社MET(三気堂薬局グループ)
薬剤師

漢方薬・生薬認定薬剤師

 

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