三気堂薬局|熊本の調剤薬局

2024.12.8

身近な薬草と薬のお話🌼 ~Vol.3 晩秋の南阿蘇に咲く花 ①~

私たちが暮らす地球には、病気の治療や健康の維持に効果のある成分を含む植物が数多く存在します。現代のように薬のなかった時代、周りの薬用植物を用いて病気を治し傷の手当をしていたのですね。それが薬の起源とされています。

秋深まる南阿蘇の野草園で見つけた薬草を紹介します。

 

~Vol.3 晩秋の南阿蘇に咲く花 ①~

 

 

リンドウ  Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.)   

                    Maxim. ex Franch. et Sav.

生薬名 : 竜胆(リュウタン)

薬用部位: 根および根茎

 

 

 

🏔高原の花

 

 

南阿蘇の野草園に群生しているススキの根元付近にひっそりと、青紫色に小さく光って咲いていました。野生のリンドウです。リンドウ科リンドウ属の多年草で、草丈2090cm、秋の野山を代表する植物です。茎の先の方に数個蕾を付けていて、そのうち2個だけ開いていました。5枚の花びらは上向きに開いていて、花びらの内側にうっすら白い斑点がちらほらと。

 

 

 

リンドウは、春に細い芽が伸びてきてササの葉に似た細い葉をつけ、立ち上がっていた茎は夏が過ぎると次第に横に倒れます。なるほど、だからリンドウは地面に近いところに咲いているのですね。そして秋が過ぎるころから小さな蕾をのぞかせ、晴天の日にだけ青空に向かって鐘状の花を咲かせるのです。古くから日本各地の山地や草原に咲き、根や根茎が薬用として使われます。短い根茎の周囲には多くの細長い根を付けるのですが、秋にその根を堀り、水洗いした後、日干しにしたものが竜胆(リュウタン)です。味は極めて苦く、苦いものほど良品とされています。その苦味が嗅覚や味覚を刺激して反射的に胃液や唾液を分泌させ、胃の運動や消化を高めることが期待されます。苦味健胃薬といわれるもので民間薬に用いられています。

 

は権威の象徴🐉

 

竜胆のは、古代中国から権威の象徴だったり守り神であったりと、この世の最高の生き物(想像上の)とされています。ウルソデオキシコール酸の起源となった熊の胆汁から作られる熊胆(ユウタン)という苦味の強い生薬がありますが、竜胆はそれよりも苦いことから、熊より強いとされるの字を当てられ命名されたそうです。また、笑止草(えやみぐさ)という古名もあり、笑いが止まるほど苦いという意味だそうです。どれほど苦いのでしょう💦

 

風寒湿熱の邪

 

漢方処方では、清熱・消炎作用が期待され、竜胆瀉肝湯、疎経活血湯、立効散などに配合されています。竜胆が主薬の竜胆瀉肝湯は、膀胱と尿道、子宮膣部などの下焦(臍より下を指す部位)における炎症などに用いられます。排尿痛、残尿感、尿のにごり、こしけ(おりもの)、頻尿などが適応です。疎経活血湯は、筋肉痛・関節痛・神経痛など、特に腰より下に発した痛みなどに用いられます。処方名の疎経は経絡の意味で、気血の通り道です。この経絡の流れを良くして活血するのがこの方剤です。17種類もの配合生薬があり、血を補う四物湯(当帰・芍薬・川芎・地黄)が基本形で、桃仁・牛膝で活血し、竜胆はそれを助けるように働きます。 それから、あまり馴染みがないですが、立効散(りっこうさん)という歯痛、抜歯後の疼痛に適応のある方剤をご存じでしょうか。歯痛に効く漢方薬なんて興味深いですよね。口に含んでゆっくり浸潤させるとあり、内服というより外用薬として用いるようなニュアンスです。一口含むと、なるほどこれは効きそうと思うほど口の中いっぱいに心地よいしびれが広がるそうです。その正体は、主薬の細辛(サイシン)の局所麻酔作用です。竜胆の苦味は知覚を鈍らせます。心地よいしびれ感が気になりますね。歯が痛いときの消炎鎮痛剤みたいなので、ロキソニンやカロナールといったところなのでしょうか?

 

秋の大地に咲く

さて、清少納言の『枕草子』に「こと花どものみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色合ひにてさし出でたる、いとをかし」とあるリンドウ。他の花々が皆、霜で枯れてしまったのに、すごく華やかな色合いで顔をのぞかせている姿はとても趣があるという意味です。古来、「男なきに泣かむとすれば竜胆がわが足もとに光りて居たり」(北原白秋)など、さみしく切ない人々の心を癒し励ます歌が多く詠まれてきたようです。リンドウは秋の大地に咲く、心をほぐしてくれるまさに“薬”なのですね。小さくても凛として優しい青紫、夏のひまわりのような大輪の花も魅力的ですが、草陰に隠れて咲く控えめでけなげな姿にも教わることが多いような気もします。味わい深い晩秋の花です。

 

 

 

熊本県の花

リンドウは、熊本県の県花に選定されています。熊本県の誇りである阿蘇山の麓に植生していたことが選ばれた理由のようですが、熊本県の郷土の花なのですね。小ぶりな花がちょこんと咲いている姿がなんとも可愛らしくて、それでいて青紫の色は重厚感があり、大好きになりました🌼

 

リンドウの咲く野草園から望む根子岳のなんと壮大で美しいこと🏔

 

 

 

参考文献

薬草パークガイドブック 熊本大学 薬学部

自然の中の生薬 株式会社ツムラ

そこが知りたい漢方 メディセオジャーナル

家庭で使えるくまもとの薬草 浜田善利著

漢方業務指針 改定5版 日本薬剤師会

漢方処方解説 医学博士 矢数道明著

腹証図解 漢方常用処方解説 高山宏世編著

 

大東裕子

有限会社MET(三気堂薬局グループ)
薬剤師

漢方薬・生薬認定薬剤師

三気堂コラム

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