三気堂薬局|熊本の調剤薬局

2024.12.27

身近な薬草と薬のお話🌼 ~Vol.3 晩秋の南阿蘇に咲く花 ②~

私たちが暮らす地球には、病気の治療や健康の維持に効果のある成分を含む植物が数多く存在します。現代のように薬のなかった時代、周りの薬用植物を用いて病気を治し傷の手当をしていたのですね。それが薬の起源とされています。
秋深まる南阿蘇の野草園で見つけた薬草を紹介します。

 

 

~Vol.3 晩秋の南阿蘇に咲く花 ②~

キク  Chrysanthemum morifolium Ramat

生薬名 : 菊花(キクカ)

薬用部位: 頭花

 

 

シマカンギク

 

野草園の外に出てみると、道端に自生しているキクの花を見つけました。直径が2㎝くらいで鮮やかな黄色い花、茎はあちこちに力強く伸び、他の植物たちと絡み合っていて野生感いっぱいでした。小さな蕾をたくさんつけていました。

 

 

シマカンギク(Chrysanthemum indicum L.)というキク科の多年草で、草丈30~50cm、西日本の山地や山麓の日当たりの良い場所に生えています。シマカンギクは今回のテーマのキクの原種であり、どちらも頭花(花の部分)を薬用とします。キクは、キク科キク属の多年草で、栽培化が進んでいるためはっきりとした野生種は存在しないようです。秋の盛花期に花を摘み取り、花の部分のみを乾燥させたものを菊花(キクカ)といいます。中国では2000年以上前から薬用として栽培されていたようですが、日本に伝わったのは平安時代と言われています。江戸時代ごろから品種改良が盛んに行われるようになり、観賞用として親しまれてきました。キクの花と言えば、お浸しとかお刺身の飾りなど食用として、はたまたお供えの花など園芸用としてはよく知られていますね。

 

菊花は目の薬👀

 

漢方処方では、釣藤散に配合されています。神経質の人で気の上衝がひどく、頭痛、めまい、肩こり、眼が充血し、神経症となり常に鬱陶しいものに用いるとあります。つまり頭まで上昇した気を引き下げ、溜まった熱を冷まし鎮静してくれるのです。11種類もの生薬が配合されていて、主薬は神経の異常興奮や沈滞を調節する釣藤鈎(チョウトウコウ)です。菊花はその補佐役として働き、上部の滞気を巡らし熱を冷まします。菊花の薬能には、鎮静作用のほかに「明目」(めいもく)とありますが、目の状態を改善するという意味です。六味丸に菊花と枸杞子(クコシ)を配合した杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)《保険適応外》という方剤があり、「疲れ目、かすみ目に効く漢方薬」とうたわれています。菊花は、長時間にわたるパソコン作業やスマホ画面の注視による疲れ目に効果的なようですね。

 

日本の花を思う

 

ところで、日本を象徴する花といえば、桜の花を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。皇室やパスポートの紋章には菊の花が使われていますよね。50円玉には菊が描かれていて、100円玉は桜の模様です。実は、桜も菊も日本の国花だそうです。国花は、法律や憲法で定められている場合もあれば、習慣や伝統で決められている場合もあるそうで、日本は後者のようです。鎌倉時代、後鳥羽上皇が菊を大変好み自らの印として愛用し、その後も代々の天皇に継承され、いつしか32弁の八重菊紋である十六葉八重表菊が皇室の紋として定着したのだそうです。あの「菊の紋章」ですね!
“春に咲く桜は美しく、自然の美しさやはかなさを象徴するもの、秋に咲く菊は華やかで、長寿や繁栄を象徴するもの” 改めて日本の国花を誇りに感じます❀

 

肥後六花~肥後菊

 

 

さて、今年こそはと肥後菊を観賞してきました。熊本には「肥後六花」と呼ばれる独特の栽培法を持つ園芸植物があります。その歴史は古く江戸時代までさかのぼるそうで、熊本藩のお殿様、六代藩主・細川重賢(ほそかわしげかた)公が、家臣(武士たち)の精神修養に園芸を奨励したことに始まったと言われています。昭和35年に昭和天皇の天覧を機に肥後名花会が発足し、四季を通して見ることができる6種類の花を決めて「肥後六花」と呼ぶようになったそうです。~春に先駆けて見頃を迎える肥後椿、新緑香る季節に肥後芍薬、初夏から夏至のころには肥後花菖蒲、夏には肥後朝顔、そして秋になると肥後菊、晩秋から初冬にかけて見頃なのは肥後山茶花(さざんか)~と堂々の六花です。花びらはすべて一重、純粋な花色(紅白黄)などの特徴があり、それぞれの種で門外不出として守り伝えられてきたそうです。スーッと細長い花びらが、まるで花火みたいで、風車が回っているようにも見え、歴史を知ると厳かな印象もありました。更に、肥後菊は1本だけで植えるものではなく、花壇に植えられた時の全体の調和の美しさを肝要とするため、花壇作りにも細かい決まりごとがあるようです。昔は、正装(紋付袴)での観賞が礼儀とされたというのですから、時代を感じずにはいられません。

 

 

菊の節句

9月9日は、長寿や無病息災を祈る日本の伝統行事のひとつ「重陽の節句」だそうです。「陽」は中国では奇数のことを意味し、「重陽」というのは、同じ陽の数字が2つ重なるおめでたい日のことだそうです。あまり馴染みがないですが、3月3日「桃の節句」や5月5日「端午の節句」と同じ「五節句」の1つで、別名「菊の節句」と呼ばれ、菊の花を観賞したり、菊酒を飲んだりする習慣があるようです。仲秋の名月と並び、なんとも風流ですね。
神社で菊花展が開かれていました。今回は菊三昧です(笑)。野生のシマカンギク、肥後の先人に培われてきた肥後菊に比べると、なんてどっしり大きいこと🌼

 

 

 

参考文献

薬草パークガイドブック  熊本大学 薬学部

自然の中の生薬  株式会社ツムラ

そこが知りたい漢方  メディセオジャーナル

原色牧野和漢薬草大図鑑  北陵館

漢方業務指針 改定5版  日本薬剤師会
漢方処方解説  医学博士 矢数道明著

 

大東裕子

有限会社MET(三気堂薬局グループ)
薬剤師

漢方薬・生薬認定薬剤師

三気堂コラム

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