三気堂薬局|熊本の調剤薬局

2024.10.19

身近な薬草と薬のお話🌼~Vol.2 秋の実り~

私たちが暮らす地球には、病気の治療や健康の維持に効果のある成分を含む植物が数多く存在します。現代のように薬のなかった時代、周りの薬用植物を用いて病気を治し傷の手当をしていたのですね。それが薬の起源とされています。

 

~Vol.2 秋の実り~

 

 

イネ   Oryza sativa L.

生薬名  :  ①粳米(コウベイ)      ②膠飴(コウイ)

薬用部位 :  ①えい果(玄米)          ②デンプンまたは種子を加水分解し糖化したもの

 

 

 

黄金色の稲穂🌾

いつしか実りの季節、自宅近くの田んぼを眺めると秋の日差しにゆらゆらと黄金色に輝いています。イネたちです。まさに秋の風物詩ではないでしょうか。イネ科イネ属の1年草、日本には縄文時代後期に渡来したと言われています。私たちの食生活に欠かせないお米ですが、薬用としても使われているのです。栄養学の炭水化物やカロリーの視点とは異なり生薬の役目は、胃を元気にして潤いを与えることを期待しています。お米には「粳米(うるちまい)」と「もち米」がありますが、粳米(うるちまい)の玄米そのものを粳米(コウベイ)といいます。また、イネの種皮を除いた種子を蒸し麦芽で糖化したものを膠飴(コウイ)といい、加工法の違いから粉末飴と水飴様のものがあります。こちらは「もち米」を使用すると良いとされています。

 

 

薬食同源なり

粳米(コウベイ)は、漢方処方では、麦門冬湯、白虎加人参湯などに配合されています。麦門冬湯は、体表面ではなく肺や胃部といった内臓が熱を帯び、その熱を帯びた気が心窩部(みぞおちあたり)から突き上がって起こる咳や嘔気を治すもの、つまり喉の乾燥に違和感、乾性咳嗽、しわがれ声、痰は粘稠で切れにくく少ないなどの症状が適応ということです。そのために、脾胃を潤し補い、肺を潤すように生薬が配合されています。主薬は麦門冬と半夏、滋潤の能のある麦門冬は、乾燥して気の上逆するのを引き下げ、半夏は痰を溶かして除き、気の上逆を下げる働きをします。人参は麦門冬と協力して乾燥を潤し、甘草・大棗は急迫を緩め、咳発作を鎮めます。そして粳米(コウベイ)は胃を滋潤し、虚労(心身が衰え弱ること)を補うとあります。

 

 

 

お米でできた飴

膠飴(コウイ)は、大建中湯、小建中湯、黄耆建中湯などの建中湯類に配合されていて、それぞれの方剤の主薬として働いています。「建中」とは消化機能を立て直すこと、「中」はお腹、「建」は建て直すという意味です。消化器を温めるということですね。大建中湯は、腸の蠕動を調整する作用があり腸蠕動の亢進による腹痛に用いられますが、開腹手術後の腸閉塞を防止する効果があり外科領域で多用されています。山椒・乾姜で裏の寒を温め、気を巡らせ、人参・膠飴はともに補剤かつ滋養の意味を持ち、4味の協力によって蠕動不安を鎮め腹痛を解するものとあります。また小建中湯においては、腹部膨満感、腹痛に用いられる桂枝加芍薬湯に膠飴が加わった方剤で、滋養強壮、緩和の効が増し、小児の腹痛に用いられることが多く虚弱児の体質改善薬として重要なものです。膠飴の薬能には「潤肺止咳」ともあり、まさにのど飴で、飴をなめると咳が治まるのは昔から知られている対処療法なのですね。

 

 

 

白く清楚なイネの花✨

 

ところで、イネの花を見たことがありますか?春先に田植えを終えたイネはすくすくと葉を伸ばし、夏になると葉を増やすのをやめて穂を作り始めます。そして8月上旬から中旬にかけて一瞬しか見ることができない花を咲かせるのです。いつもなら通り過ぎていた田んぼに幾度となく足を止め、まだかまだかと青々と元気のよい穂を眺めていました。そしてついに可愛らしい白い花に遭遇することができました\(^o^)/

 

 

 

ひとつの穂には約100個もの花がつき、穂の先の方から咲き始めます。花を咲かせるのに適した日光と温度条件がととのった日のしかも午前中に咲くのです。緑色のもみ(えい)が縦に半分に割れて、中からおしべが6本ほど出てきます。これがイネの花です。花びらのない花で、花と言われなければわかりません。もみの中のめしべは、おしべの先からこぼれ落ちてくる花粉をじっと待っているのです。花が咲いているのは1時間ほどで、それは受粉にかかる時間のようです。受粉が終わるとおしべを出したまま閉じてしまい、もう開くことはありません。田んぼを彩る白く清楚なイネの花々、花びらがあるとしたらどんな形でどんな色だろうと想像しながら、神秘の世界に引き込まれてしまいました。

 

 

 

頭を垂れる稲穂かな🌾

さて、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」とは、熟した稲ほど実の重みで頭が下がる様子から、知識や徳を積んだ人ほど謙虚な人間になることを示すことわざです。パナソニック創業者の松下幸之助氏もこれを信条とし、商売だけではなく人の生きる道として志していたそうです。稲自らの力に加え、土や水、日光など直接的にも間接的にも多くの働きによって成長し、自然と稲穂が垂れ下がっていくのです。私たち人間も、様々な支援とご縁があってここまで生きてこられたのだと思います。周りの方への感謝の気持ちを忘れず、謙虚な気持ちで過ごしたいものです。

 

 

 

米不足に思う

それにしても、このところの米騒動、人口減少や食生活の多様化による1人当たりの米消費量の減少、一方減反政策の影響や農家の高齢化による米生産量の減少といった需給バランスの問題、さらに、気候変動による異常気象や自然災害による収穫量の不安定さといった様々な要因が絡み合っているようですね。しかしながら、あんな小さな花がお米へと育っていっているのだなと思うと、米作りに携わる皆さんに感謝し、今年もおいしいお米をいただきたいと切に願わずにはいられません🍙

 

 

 

環境に優しい(^^♪

イネは、日本酒や味噌、醤油などの原料としても利用されています。精米時に出る糠は糠漬けとして、収穫後の稲藁は畳の床や堆肥に利用されています。日常生活に潤いを提供する環境に優しい植物ですね。
田植えが終わったばかりのキラキラ光る田んぼが大好きなのですが、気付いたら、黄金色の稲穂の横に真っ赤な曼殊沙華、色合いがあまりにも美しく思わず酔い痴れてしまいました。

 

 

 

参考文献

薬草パークガイドブック  熊本大学 薬学部

自然の中の生薬  株式会社ツムラ

そこが知りたい漢方  メディセオジャーナル

漢方業務指針 改定5版  日本薬剤師会
漢方処方解説  医学博士 矢数道明著
腹証図解 漢方常用処方解説  高山宏世編著

 

大東裕子

有限会社MET(三気堂薬局グループ)
薬剤師

漢方薬・生薬認定薬剤師

三気堂コラム

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