三気堂薬局|熊本の調剤薬局

2024.7.2

「なぜ?どうして?」にしっかりと向き合う

筆者は、大学で薬学を教えている教員であり、私生活では子供4人の親でもある。大学では「なぜこの研究をしないといけないのですか?」、家に帰ると「どうしてゲームやYouTubeばっかりみたらダメなの?」等、質問攻めの日々で、正直、ゆとりがない時は雑な回答をしてしまうことも多々ある。ニュートンが発見した万有引力の法則も、木からりんごが落ちるという一見当たり前のことに疑問を抱いたことがきっかけだったこともあり、できる限りしっかりとした答え方をしようと心かけているものの、時にふと答えに窮することもある。

 

最近、人気お笑いコンビがテレビで「薬剤師を軽視している」発言をしたことがネット上で炎上したことを皆さんはご存知だろうか?その内容は、「イライラする時間」として挙げられた一例が「薬局での体験談」であり、病院で聞いたことと同じことを改めて聞かれるのはイライラするというものである。(ひょっとすると、今このコラムを読んでいる方の中にも、まさに薬局での待ち時間の最中という人もいるかもしれないが、、、)これに対し、「薬剤師という職業を軽視しているのでは」とSNS上では批判が相次いだ。

 

この問題の本質は、薬局において繰り返しされる質問の真意が患者さんにあまり理解してもらえていないことだと思われる。従ってこの問題に対し、薬剤師法では、「調剤した薬剤について、患者さんに必要な情報の提供や薬学的知見に基づく指導を行わなければならない」と法律で義務付けられている。故に、法律に則って仕事をしている薬剤師を軽視すべきではない、という答え方では、この問題の本質に対するしっかりとした回答になっていないどころか、さらなる不穏さえ生み出すように感じる。

 

筆者は、薬学部の講義の中で、服薬指導の目的として、『薬の適正使用』と『薬害の防止』だと教えている。分かりやすく言えば、一人一人の患者さん(高齢者や妊婦、小児など)にとって、その薬を服用することがベストであるかを判断するために服薬指導は行われている。例えば、持病や他に飲んでいる薬・サプリメント、喫煙や飲酒によっても薬の効果は変化し、時に副作用が出てしまうことも十分あり得る。体に影響を及ぼす薬の副作用の出る確率は、1,000人に1人以下、交通事故に遭う確率(0.2%程度)よりも低いとされているが、それが自分に絶対起こらないとは誰も言い切れないわけである。

薬剤師は、医師とは異なる視点、つまり薬の専門家として、一人一人の患者さんが安心・安全に薬を飲めるように、常に目を光らせながら患者さんと向き合っている。その一環としての「薬局での問いかけ」なのだということをしっかりと一人でも多くの方に伝えたい、今回の一件を通して切に思う。

 

異島 優

京都薬科大学 薬剤学分野 教授
学歴:熊本大学大学院薬学教育部卒 薬学博士
職歴:2002 年 熊本大学薬学部卒業後、同大学院に進み、2007 年に特任助教として採 用。2010年 米国 University of Pittsburgh Medical Center (UPMC) に留学。以後、熊本大学薬学部にて助教を経て、2018 年より徳島大学薬学部にて准教授に採用、2023 年より現職。

 

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