私たちが暮らす地球には、病気の治療や健康の維持に効果のある成分を含む植物が数多く存在します。現代のように薬のなかった時代、周りの薬用植物を用いて病気を治し傷の手当をしていたのですね。それが薬の起源とされています。
北の大地ならではの薬用植物を紹介します。

~Vol.7 異国の植物園めぐり 札幌編 🌳北海道大学植物園🌳~
キンポウゲ科
オクトリカブト Aconitum japonicum subsp. subcuneatum
生薬名 :附子(ブシ)
薬用部位 :塊根
さわやかな秋の森林🌳

9 月初め、北海道大学植物園を訪れました。札幌農学校(北海道大学の前身)の教頭だったウイリアム・クラーク博士(そうです!「少年よ、大志を抱け」の言葉を残された方です)が、植物学の教育には「植物園」が必要であると進言したことに始まり、初代園長となる宮部金吾氏によって計画・設計され、1886(明治19)年に開園しました。園内に入ると、とにかく巨木たちに出迎えられました。広々とした芝の先には洋風の建物があり、覗いてみるとそこは博物館、北海道の動物標本や特徴的な土器などが展示されていました。札幌の中心部に位置する北海道大学植物園は、「緑のオアシス」として一般市民に公開されている一方、開拓以前の植生を今に伝える貴重な場所だということがうかがえました。


危険な魅力~アコニチン

更にその奥のうっそうとした林に入って行くと、お目当ての「トリカブト」が咲いているではありませんか!キンポウゲ科トリカブト属の多年草(疑似一年草)で、茎は直立または斜上し、草丈は2m になるものも。「オクトリカブト」の名札がありました。花期は8~10 月、独特の花姿が、舞楽や能の尖った帽子の「鳥兜」に似ていることが和名の由来です。鮮やかな青紫色の花を見た瞬間、「危険!」「きれい!」「触ったらダメ!」頭の中で、いろいろな思いが交錯しました。それもそのはず、根や茎葉、花など全草に猛毒を含む「毒草中の毒草」なのですから! 最も毒性の強い地下部は母根(烏頭ウズ)と子根(附子ブシ)に分かれていて、その主成分は「アコニチン」、摂取すると急速にしびれや呼吸不全、けいれんなどの症状が現れ、やがて心停止に至ります。そして2026 年現在、解毒剤は存在しないのです💦

起死回生の妙薬
そんな恐ろしいトリカブトですが、古代人は、その毒を工夫して無毒化し、冷えを取ったり痛みを鎮めたりするために用いてきたのです。塊根(養分を蓄えて肥大した根)を修治(高圧蒸気処理などで減毒)したものを、加工ブシ末といい薬として使います。「オクトリカブト」は、「ハナトリカブト」に並び日本薬局方に収載されている「附子」の基原植物です。漢方処方では、麻黄附子細辛湯、牛車腎気丸、八味地黄丸、桂枝加朮附湯などに配合されています。身近なところにトリカブトの根が存在していたのですね。

麻黄附子細辛湯の構成生薬は、名前の通り麻黄・附子・細辛の3つです。虚弱者の外感病の初期に用いるとあります。体力が低下して、冷えが強い虚証の人の風邪に使われます。一方体力のある実証の人の風邪には、葛根湯『Vol.1 夏に咲く花~クズ』が使われましたね。実証タイプは、身体の表面を麻黄・桂枝で発汗させますが、虚証の場合、身体の深部にも冷えがあるので、そこは「附子」の出番というわけです!「表」を温める麻黄・細辛、そして「裏」を温める附子との共同作業で、全身の新陳代謝を高めます。
エゾトリカブト(蝦夷鳥兜)

日本で見られるトリカブトは約30 種類、そのうち北海道では、オクトリカブト、エゾトリカブト、ヒダカトリカブトなど5 種類ほどが生育しているそうです。少し進むと「エゾトリカブト」の文字、茎がむち状にしなだれ、その先端付近に十数個並んで咲いていました。「エゾトリカブト」は、とりわけ毒性が強いらしく、北海道にしか自生していないのだそうです。貴重な植物にお目にかかれました。「オクトリカブト」とは、葉の切れ込み具合に違いがあるようですが、花だけを見ると区別するのは難しいです。

アイヌの矢毒🏹

自然界において、フグに次ぐ猛毒を持つことで知られるトリカブト、古代より、魔術や儀式、狩猟などに用いられてきました。アイヌ民族にもトリカブトを使う習慣があり、狩りに使う矢にはトリカブトを煮詰めて作った毒を塗り込んだと言われています。園内の北方民族資料室には、明治期に実際に使われたとされる狩猟用具が展示されていました。そして貴重な「クマ送り」の記録映像を見ることができました。

ヒグマは、毛皮や肉という最高のご馳走(お土産)をどっさり背負って人間の世界に遊びにやってきた『山の神』そのもので、人間がクマを狩猟することは、「命を奪う(殺す)」ことではなく、『神の肉体という衣を脱がせ、魂を元の世界へ還す』ことだと捉えられていました。神が肉体を提供してくれたことに深く感謝し、お酒やご馳走をたくさん捧げて宴会を開き、再び恵みをもたらしてくれると信じて送り返すのだそうです。アイヌ文化では、トリカブトの毒は「恐ろしい悪魔」ではなく、人間を助けてくれる『強い女神』として崇められていたのです。

バラ科
ハマナス Rosa rugosa Thunb.
生薬名 : 玫瑰花(マイカイカ)
薬用部位: 花
ローズヒップ✨

うっそうとした林を抜けると、明るいバラ園に出ました。ハマナスの木が立ち並び、プチトマトみたいな朱色の実がキラキラ光っていました。バラ科バラ属の落葉低木、樹高1~1.5m、花期は4~6 月。そしてこの時期になる実は、「ローズヒップ」と呼ばれ、豊富なビタミンC やポリフェノールを含み、ハーブティー、ジャム、果実酒、お菓子などに広く使われます。花が咲いた後に結実し、秋に収穫されます。

初夏の海風の中で咲く花🌸

よく見ると、ピンクの可愛らしい花も咲いていました。花には収斂作用があり、下痢、月経過多、および疲労回復に用いられます。花から採れるローズ油には、リラックス効果、肌のエイジングケア効果などが期待されています。北海道の砂浜や海岸に多く自生していて、厳しい寒さに耐え、夏の訪れとともに咲く姿は、北国の初夏の象徴として道民に深く親しまれているのです。昭和53 年、「北海道の道花」に指定されています。
赤れんが庁舎

植物園の正門からまっすぐ伸びた道の先に、『赤れんが庁舎』の愛称で知られる北海道庁旧本庁舎(国指定重要文化財)がそびえ立っていました。現在使われている新庁舎ができるまで、約80 年に渡って道政を担ってきた歴史ある建物です。春には桜やライラック、夏には豊かな緑やハマナス、秋には紅葉が美しく、季節ごとに異なる表情が楽しめる観光スポットになっているようです🌳

参考文献
薬草パークガイドブック 熊本大学 薬学部
自然の中の生薬 株式会社ツムラ
そこが知りたい漢方 メディセオジャーナル
原色牧野和漢薬草大図鑑 北陵館
日本の有毒植物 監修 佐竹元吉
漢方処方解説 医学博士 矢数道明著
証図解 漢方常用処方解説 高山宏世編著
北海道大学植物園 Botanic Garden ,Hokkaido University
大東裕子
有限会社MET(三気堂薬局グループ)
薬剤師
漢方薬・生薬認定薬剤師


薬の⾖知識や地域の元気を紹介したりと三気堂薬局がお届けする
体と⼼を元気にするコラムです。



