三気堂薬局|熊本の調剤薬局

2026.5.9

身近な薬草と薬のお話🌼~Vol.6 春に咲く大輪の花~

私たちが暮らす地球には、病気の治療や健康の維持に効果のある成分を含む植物が数多く存在します。現代のように薬のなかった時代、周りの薬用植物を用いて病気を治し傷の手当をしていたのですね。それが薬の起源とされています。
春に鮮やかに咲き誇る大輪の花を紹介します。

 

 

~Vol.6 春に咲く大輪の花~
ボタン  Paeonia suffruticosa  Andrews
生薬名 :牡丹皮(ボタンピ)

薬用部位:根皮

 

百花の王👑

 

4 月半ば過ぎ、ボタンの花が見ごろと聞き、早速観に行きました。雨上がり、目に飛び込んできたのは、赤や黄色、ピンクや紫、白などの目に鮮やかな花色、そしてその花の大きさたるや、大きいものでは径25cmくらいもありました。樹高50~180cm、枝先に大形の花を1 個つけます。花びらの様子も様々で、その豪華絢爛な姿は、まさに「百花の王」の名にふさわしいという印象でした。中国原産のボタン科ボタン属の落葉低木、日本に渡ってきたのは奈良時代とか平安時代とか言われています。

 

 

生薬の修治

 

さて、目の覚めるようなボタンの花ですが、薬用目的に栽培する場合は、花期に開花させず、できるだけ蕾を取り除いて、根の発育がよくなるよう配慮されます。新鮮根からひげ根や茎芽を除いた後、芯(かたい木部)を抜き取り、皮の部分を日干しし乾燥させたものを、牡丹皮(ボタンピ)といいます。皮が薄く肉厚で香気の強いものが良品とされます。採取した天然物を薬として使用する前に、薬効の強化、毒性の軽減、品質の安定化などを目的に施される様々な加工のことを「修治」といいます。牡丹皮は、非薬用部分を除去するために行われます。つまり、薬効があるのは皮の部分なので、薬効のない芯の部分は取り除くというわけですね。非常に手間のかかる作業のようです。瘀血(おけつ=血の滞り)を除き、化膿した種物を治し、月経を通じ、打撲損傷を消退させ、煩わしい熱感を除くとあります。

 

 

駆瘀血薬

漢方処方では、桂枝茯苓丸、八味地黄丸、牛車腎気丸、大黄牡丹皮湯などに配合されています。桂枝茯苓丸は、月経不順、更年期障害などの女性薬として有名ですが、男性にも使われます。主薬の牡丹皮と桃仁は、血液の渋滞を散じ血塊を解きます。桂枝はこれらに協力してその作用を強化し、芍薬は鬱血を散じ、筋肉の緊張を緩和し鎮痛の効を発揮します。茯苓は利尿強心の効があります。ところで、牡丹皮と桃仁が圧倒的に主薬のこの方剤、私の中では、‘’桃仁牡丹皮湯‘’というイメージ(勝手に命名 )なのですが、「桂枝茯苓丸」という名前が興味深いところです。

 

 

「腎虚」という概念

腎虚の代表的方剤に八味地黄丸があります。人の成長、発育、生殖に影響を与える生命エネルギーを東洋医学の概念で「腎気」といいますが、これは加齢により減少すると言われています。腰痛や骨粗鬆症、脱毛や白髪、難聴や耳鳴り、皮膚の乾燥・痒み、排尿障害や尿失禁、下肢の冷えやだるさなどは、腎気が虚している、いわゆる「腎虚」の状態と考えられています。時々耳にするサルコペニアやフレイユは、「腎虚」と密接な関係がありそうですね。そこで腎虚を補う方剤として用いられるのが八味地黄丸です。地黄(主薬)、山茱萸、山薬には強壮、強精、滋潤の効が、茯苓には強壮、鎮静、利尿の効が、沢瀉には利尿、止渇の効があります。そして牡丹皮には血のうっ滞を散じ鎮痛の効があり、さらに諸機能の沈衰を鼓舞する桂枝と附子が配合されています。八味地黄丸に牛膝、車前子を加えたものが牛車腎気丸で、八味地黄丸の作用をさらに増強させたものということにとなります。

 

 

七十二候~ 「牡丹華」🌸

「牡丹華(ぼたんはなさく)」という季節があります。「二十四節気」とは、1 年を太陽の動きに基づいて、24 に分けて季節の移り変わりを表した暦のことですが、二十四節気の1 つ1 つの季節を更に3 つに分け、つまり1年を72 に分けた暦が「七十二候」です。季節の変化を、更に細かく生き物、植物、空、水の動きなどで表現してあります。「立春」から始まった春は、「啓蟄」「春分」などを経て「穀雨」で締めくくられますが、その「穀雨」の最終章が「牡丹華」です。ゴールデンウイークの頃にあたります。春の陽気が本格的になり牡丹の花が開くと、そろそろ春から初夏に移り変わりますよということなのですね🐛

 

 

司牡丹(つかさぼたん)酒造🍶

白壁造りの風情ある町並みが今も残る高知県佐川町(さがわちょう)は、仁淀川(によどがわ)の豊富な湧き水でも知られています。その場所に蔵を置くのが、1603 年(慶長8年)創業の「司牡丹酒造」、そしてそこで製造される高知の代表的な日本酒こそが「司牡丹」です。坂本龍馬、中岡慎太郎亡き後の陸援隊長を務めた佐川出身の田中光明伯爵が、「牡丹は百花の王、さらに牡丹の中の司(つかさ=長)たるべし」という称賛を込めて銘酒命名したのだそうです。そのブランド名が、のちに社名としても定着しているようです。興味深いことに、植物学者・牧野富太郎の生まれも高知県佐川町、しかも実家は造り酒屋です。富太郎が植物学の道に進んだことにより、実家の酒蔵は人手に譲られることになったのですが、その後、「司牡丹酒造」に引き継がれたというのですから、牡丹の名を持つ酒蔵と植物学者の縁と申しましょうか、実に面白いです。ただ、「雑草という草はない」と言った富太郎の目には、花の王と呼ばれる牡丹も、道端の小さな草も、植物としては同じ命であるとうつっていたようです🍃

 

 

肥後六花~肥後芍薬

 

「立てば芍薬 座れば牡丹・・・」『Vol.1 夏に咲く花~オニユリ』、牡丹ときたらやはり芍薬ですね!牡丹よりやや遅れて咲きます。

 

 

牡丹が「樹木」に対し、芍薬は「多年草」です。根を薬用部分とし、筋の拘攣(こうれん=引きつること)を緩め、血行を良くし痛みを取ります。芍薬甘草湯、当帰芍薬散をはじめ、多くの方剤に配合されています。「肥後芍薬」の継承栽培をされているお宅を訪問させていただく機会がありました。ピンクや白の一重咲きの大輪の花々が、広い敷地いっぱいに咲き誇っていました。周辺には柔らかな香りが漂い、芍薬ブレンドティーのおもてなしにご満悦の私でした☕

 

 

 

参考文献

薬草パークガイドブック  熊本大学 薬学部
自然の中の生薬  株式会社ツムラ
そこが知りたい漢方  メディセオジャーナル
原色牧野和漢薬草大図鑑  北陵館
牧野富太郎植物記5  木の花
漢方処方解説  医学博士 矢数道明著
腹証図解 漢方常用処方解説  高山宏世編著
漢方業務指針 改定5 版  日本薬剤師会

 

大東裕子

有限会社MET(三気堂薬局グループ)
薬剤師

漢方薬・生薬認定薬剤師

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