三気堂薬局|熊本の調剤薬局

2025.12.3

身近な薬草と薬のお話🌼~Vol.5 身近な食べ物の花 ②~

私たちが暮らす地球には、病気の治療や健康の維持に効果のある成分を含む植物が数多く存在します。現代のように薬のなかった時代、周りの薬用植物を用いて病気を治し傷の手当をしていたのですね。それが薬の起源とされています。
いつも私たちの食卓に並んでいるある食べ物の花を紹介します。

 

 

~Vol.5 身近な食べ物の花 ②~
ゴマ  Sesamum indicum L.
生薬名 :胡麻(ゴマ)

薬用部位: 種子

 

 

ゴマの花

 

今年の夏も長かったですね。10 月も後半、ようやく秋風を感じ始めたころ、鞘(さや)がはじけて中から飛び出してきたのはゴマたちです。ゴマは花が終わると花の下に鞘ができ、中にたくさんの種ができます。100 個くらいの種が入っているそうです!その種を日干ししたものが私たちのよく知っているゴマです。

夏の間咲いていた薄いピンク色の可愛いゴマの花ですが、よく見ると「あっかんベー」しているみたいに見えませんか?(笑)。ゴマ科ゴマ属の一年草で草丈1メートルほど、下部から次々と開花していきます。インド、エジプトが原産といわれ世界で広く栽培されています。香ばしい風味と豊富な栄養があり、‘’肌の健康に役立つ‘’と絶賛され多くの著書も目にします。

 

 

黒ゴマと白ゴマ、薬用(胡麻)として使用するのは一般に黒ゴマのようです。通便・強壮・肌を潤す作用があり、虚弱体質・乾燥便秘・老人性皮膚瘙痒症・視力の低下などに用いられます。また種子からはゴマ油が得られ、食用油とする場合は炒ってから搾るため色も濃く特有の香りがありますが、薬用として用いる場合は炒らずに搾り精製するので、無色透明に近く香りもほとんどありません。乾燥した肌をよく潤します。

 

紫雲膏の原料

 

漢方処方では、消風散『Vol.5 身近な食べ物の花①~ゴボウ』に配合されるほか、ゴマ油は、紫雲膏・中黄膏などの漢方外用軟膏の基剤となります。江戸時代の外科医、花岡青洲(はなおかせいしゅう)が、中国の明時代の外科医の著書『外科政宗』にある「潤肌膏」を基に作り変えたものが紫雲膏です。よく肌を潤し、肉を平らかにするというもので、漢方外用薬のうち最も重要なものとされています。火傷・痔・ひび・あかぎれなど、さまざまな皮膚疾患、外科的疾患に応用されます。構成生薬の当帰は、筋肉や皮膚を潤し、排膿をよくし肉芽の発生を促します。紫根はムラサキという植物の根で、往年「江戸紫」と称した紫染料は、この紫根よりとったものだそうです。紫雲膏の色の正体はこれですね!解熱・解毒・殺菌の効があり、肉芽の発生を促します。そしてゴマ油・ミツロウ・豚脂をもって外用に便ならしめると書かれています。紫色鮮明を上品とします。

 

薬局製剤~紫雲膏作り

紫雲膏作りを体験したことがあります。材料は、ゴマ油(1000g)・当帰・紫根(各100g)・ミツロウ(380g)・豚脂(25g)。ミツロウはミツバチの巣から得たロウなので、黄色いロウの塊を、豚脂はラードを、当帰と紫根は、それぞれ茶色と赤茶色の3~5 ミリ四方の木くずをイメージしてみてください。

 

 

まず、ゴマ油を200 度くらいで60 分ほど煮ます。重合(十分加熱されたかどうかの指標で、コップの水にゴマ油を1 滴落とした時、拡散しないで球状になればOK)を確認し、そこにミツロウ・豚脂を入れて溶かします。次に170 度前後で当帰を少量ずつ入れ、当帰に焦げ色がついたら取り出します(揚げたて当帰は香ばしくて美味でした笑)。更に140 度くらいで紫根を入れて2~3 沸させ、鮮明な紫赤色になったら火から降ろします。ガーゼでこし、乳鉢で撹拌冷却し軟膏とします。私も愛用のきれいな紫雲膏ができました(^^)/

 

 

 

医聖 華岡青洲

ところで、紫雲膏を作った花岡青洲という人物ですが、江戸時代の文化元年(1804 年)に世界初の全身麻酔を使用した乳癌手術を成功させた医師なのです。痛みを感じない手術の方法、即ち麻酔法の完成こそが癌治療のために最重要だと考えました。薬草の研究を重ね、チョウセンアサガオ=曼陀羅華(まんだらげ)やトリカブト=草烏頭(そううず)などに麻酔効果があることを発見しました。

 

 

そして自ら治験を申し出た実母の死、妻の失明という大きな犠牲を払い、研究開始から20 年目に遂に完成したのが「通仙散」です。全身麻酔と聞けば、顔にマスクを当てられ数を数えているうちに意識がなくなり、次に目が覚めた時は手術が終わっているような情景を想像しますが、なにしろ飲み薬なのですから想像がつきません💦日本麻酔科学会のシンボルマークになっているチョウセンアサガオ、日本で本物を見ることは稀のようですが、類似種は見かけることがあります。緑色のトゲトゲの実はいかにも毒々しい☠

 

 

「開け、ゴマ!」

さて、アラビアンナイト(千夜一夜物語)という、イスラム世界の説話集の一編に「アリババと40 人の盗賊」というお話があります。盗賊たちが財宝を隠している洞穴の入り口で「開け、ゴマ!」と唱えると岩の扉が開くのです。世界中の人が知っているこの呪文の言葉、どうして「ゴマ」なのでしょうか?ゴマの鞘がはじける様子から連想されたとか、ゴマが貴重な食材であったため宝物に見立てたなど諸説ありますが、正確なことはわかっていないようです。
岐阜県関ヶ原町にゴマのテーマパークがあり、「開け、ゴマ!」の合言葉が鍵になっている扉があるそうです。扉の向うに、どんなワクワクドキドキが待っているのかな☺

 

 

「セサミストリート」はカラフルな多様性の世界

1969 年にアメリカで始まった子ども向け教育番組「セサミストリート」をご存じでしょうか?お茶目でクスクス笑いの赤いモンスターのエルモや、背が高くて無邪気で優しいビッグバードなどのキャラクターたちは日本でもお馴染みですよね。その番組のタイトルが、ゴマ栽培に由来しているそうなのです。アメリカにおけるゴマの大規模栽培は1950 年代にテキサス州に始まったといわれていますが、農場で働く労働者は栽培規模の拡大とともに増加し、いつしか町のメインストリートは「セサミストリート」と呼ばれるようになりました。農場主は、通りの一角に学校を開設し、労働者の子どもたちに人種差別のない教育を行ったのです。番組担当者は、この教育熱心な農場主をヒントに番組制作を行ったということです。キャラクターたちは、一見、動物やモンスターが入り交ざった愉快な仲間たちですが、その背景にあるものは意外と深く、それぞれの価値観や多種多様な生き方が尊重されています。まさに多様性といわれる今の時代に、大切なメッセージを届けてくれそうですね♡

 

 

エンジェルトランペットの鳴らす危険な調べ🎺

11 月半ば、近所の畑にアサガオのオバケみたいなエキゾチックな花が咲いていました。キダチチョウセンアサガオ、別名エンジェルトランペット。麻酔薬の成分であるチョウセンアサガオの近縁種でよく混同されるようです。チョウセンアサガオが上向きに咲くのに対して、下向きに垂れ下がって咲くのが特徴、毒性も似ていて全株有毒、嘔吐・けいれん・呼吸困難・瞳孔の散大などの中毒症状を起こします。

 

 

園芸雑誌に『エンジェルトランペットの鳴らす危険な調べ』と紹介されていました。そしてこう続きます『天使のラッパという名前と美しい姿を持ちながら、実際には人を悪夢に導く幻覚や、一歩間違えれば実際に死出の旅に送り出してしまう』と (*_*;

 

 

参考文献

薬草パークガイドブック 熊本大学 薬学部

自然の中の生薬 株式会社ツムラ
漢方処方解説 医学博士 矢数道明著
漢方業務指針 改定5 版 日本薬剤師会
原色牧野和漢薬草大図鑑 北陵館
日本薬剤師会雑誌 第55 巻 第1号
日本の有毒植物 監修 佐竹元吉

 

大東裕子

有限会社MET(三気堂薬局グループ)
薬剤師

漢方薬・生薬認定薬剤師

三気堂コラム

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